岩ヂャレ東のルンゼ

いよいよ斜度がきつくなり、右手北側の尾根に逃げようとトラバースに移る。一歩一歩荷重をかけながら進んでいると、突然足元の岩が大きく剥がれて、のけぞるように転落しそうになった。

幸い右手は、ガバの状態でがっちりホールドしていたので転落は免れた。一気に体がこわばり委縮してしまった。振り返ると、写真でもその斜度が分かるくらいの所で動けなくなったのだ。取付きからすでに40分の急登を続けている。

なんとか尾根に乗ったものの、クライミングの技術のないロッコペリは岩稜を登ることはできない。そのまま尾根を乗越し、急な谷筋をがむしゃらに詰めていく。ホールドは、落ち葉と接する岩の割れ目だけ。

何とか登った谷は、ハングした岩で三方を囲まれ万事休す。正面のぽっかり空いた、洞窟のようなところから抜けられないかと近寄るもしっかり岩が詰まっていた。

少し下がって、右手北側のやぶにルートを求めると、なにやらヘリウム風船の残骸があった。実はこれ、先人(3名)たちの記録にも出てくる代物。

これを見た時に、ルートとしては間違っていなかったと心底安心した。この辺りから、傾斜がゆるくなり立ち木も多く登りやすくなってきた。

さらに詰めると、どこを触っても崩れ落ちそうな岩塊がお目見えする。ここは左から大きく巻いていく。

岩塊の弱点を立ち木だよりに登っていき、突き出た岩の下に体を滑りこませて右から抜ける。押しつぶされそうな感覚。「岩ヂャレ」の名の通りで厳しいが、スカイラインはすぐそこ。

さらに傾斜がゆるみ、このルートの終わりに近づいたのが分かる。振り返ると、真後ろに長峰山の天狗塚が見えている。

藪を抜けると突然、見慣れた地点に飛び出した。取付きからここまで標高差190m、実に1時間20分もかかっている。この先の「岩のベンチ(私称)」は、平らで広さもあり、腰掛けて休憩や湯を沸かすの都合が良い。山寺尾根支尾根を下るのもこのベンチが目じるしだ。

小休止のあと、山寺尾根から掬星台に向かっていく。次は、旧天上時へ向かう山麓水平路手前のコルから、南に延びる尾根を下り摩耶東谷へと抜けていく。

いきなり激下るが、ホールドになる立ち木も多く、落ち葉ですべって尻餅も何度がついたが危険を感じることはなかった。

尾根は浅い谷で終わり、すぐ先に摩耶東谷が見えてきた。振り返り下ってきた尾根を撮影する。岩ヂャレ東ルンゼの険悪さに比べれば、自然のアスレチックにさえ思えてくる。

摩耶東谷の合流地点から下流を写す。少し下って合流地点を振り返る。ちょうど、スラブ状の滝の左手20mほど上流から降りてきたことになる。

この辺りから、カラスがかなり騒がしい。少し前から、吹き上げる谷風にのって、強烈な腐敗臭が漂い谷全体を覆っている。

【閲覧注意】不快画像なのでモザイク処理。どうしても見たい方は画像をクリック。

下ってすぐ、やはりイノシシの死骸が水流に転がっていた。ガスで体は膨れ上がり、大量のウジが腐肉を食餌し、自然に戻す処理を行っている最中だった。

2週間後には嫌な臭いもなくなり、表皮のみを残し完全な骨格標本の状態にまで処理してくれる。鳥にとっては、ウジも貴重な高たんぱく源なのだろう、あれだけいたウジの姿はほぼ見当たらなかった。

倒木から新しい樹が生える「生命の樹」を過ぎ、ロープ場にやってきた。ここは、右岸をトラバースしロープウェイ尾根から安全に下ることができる。

トラバースしロープウェイ尾根のシンボルを過ぎると、ゆっくりと尾根尻に下っていける。下った先にはゴルジュの出口がまっている。溜まった水をみると泡立っていて、上流からの汚染が広がっているのがわかる。

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